M13号シネマ

2017年1月31日 (火)

M13号的トホホムービー2016+α

昨日に続いて今日はトホホ10です。

1位、バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生

2位、スーサイド・スクワッド

3位、テラフォーマーズ

4位、ライチ 光クラブ

5位、真田十勇士

6位、高慢と偏見とゾンビ

7位、コップ・カー

8位、後妻業の女

9位、エスコバル 楽園の掟

10位、ソーセージ・パーティー

①②③はよくぞここまでカネかけてダメコミ映画作ったわねという意味で。④⑤は舞台の映画化以前に映画化に相応しい題材ぢゃなかったので、⑥は何でもかんでも詰め込み過ぎたので、⑦⑨はアウトロー物として過剰に期待してしまったので、⑧はもっとドロドロしたものにして欲しかったので、⑩はおバカ映画を作るつもりが、笑えないバカ映画になってしまったので(好きなジャンルなのに)

総評 2011年にこのベスト10を始めて以来、初めて邦画がベスト1に輝きました。更にベスト10にも邦画が5本入るなど、昨年は邦画の当たり年でした(トホホでも4本入ってるけど)。その一方洋画、特にアメコミ原作ものはマーベルの安定とDCの迷走がはっきりしました。まぁ今年は『ワンダーウーマン』もあるので、少しは巻き返せるのかなと思います(で、『ジャスティス・リーグ』で帳消しにすると)。全体で見れば『君の名は』のメガヒットで、洋高邦低という流れは変わりつつありますが、またいつ逆転されてもおかしくないので、業界全体で常に危機感は抱いて欲しいと思います。

2017年1月30日 (月)

M13号的ベストムービー2016

去年は2月にずれ込んだM13号的ベストムービーですが、今年は1月中に発表する事が出来ました。というわけでまずはベスト10から。

1位、クリーピー 偽りの隣人

2位、デッドプール

3位、日本で一番悪い奴ら

4位、葛城事件

5位、帰ってきたヒットラー

6位、マンガをはみだした男 赤塚不二夫

7位、シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ

8位、ミュータント・ニンジャ・タートルズ 影

9位、さらば、あぶない刑事

10位、ゴーストバスターズ(リブート版)

特別賞、徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑
      
①は予想外の殺し方を披露してくれたので(しかも18禁じゃないのよ!)、②は作り手がデップーというキャラを、本当に愛してる事が伝わってきたので、③④はやる気になれば、実写の邦画が面白い事を教えてくれたので、⑤はトランプ政権誕生を予言した先見性があるので、⑥は本人不在のドキュメンタリーとしては、面白かったので、⑦⑧はアメコミ映画としてそこそこ面白かったので、⑨は日本でも『エクスペンダブルズ』みたいな映画が出来る事を実証したので、⑩は言われてるほどヒドくなかったので、特別賞はあの映画に影響を与えたらしいので。

ベストガイは香川照之。今の日本人俳優で、一番ジョーカー演じさせてみたい人ですから。あの得体の知れなさは、どこまでが演技でどこまでが地か、正直わかりもさん。ベストガールはマーゴット・ロビー。他のヤツはいいので、サッサとハーレイ・クイン単独主役作を観てみたいですし(出来れば脱ぎの要素も取り入れて、ジョーカーは前述の香川さんで)。ベストシーンはこれまた『クリーピー 偽りの隣人』から、香川照之の殺しのシーン全部。共演した竹内結子曰く「鳥から作ってるみたいだった」というのは、確かに言い当て妙ですな。ビールのお供に最高。うまいぞ!(って、またクッキングパパかよ)

明日はトホホ10と総評をお送りする予定です。

2016年5月13日 (金)

M13号シネマ『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』

今日は13日の金曜日で仏滅です。こういう日には何かと悪夢のような出来事が起こりやすいと言われてますが、その中にヒーロー同士の戦いというのがあったら、ある意味救いようがないでしょう。何せ当事者はもちろん、ほとんどの回りは誰も得しないんだから。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(以下『CW/CA』)は、そういう作品です。

アベンジャーズはアフリカでテロリストを制圧するが、その際やりすぎて市民に多大な犠牲が出てしまった。兼ねてから彼らの首に鈴を着けたがっていた合衆国政府の上層部は、過去の戦いでの被害も引き合いにしながら、アベンジャーズを国連の指揮下に置く事で、ヒーロー活動を制限しようとする「ソコヴィア協定」を発表。アイアンマン(ロバート・ダウニーjr)は「国連のお墨付きが得られれば、活動の正当性が増す」とこれを支持。しかしキャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)は「活動が制限されたら、助かる命も助からない」とこれに反発。両者の間には深い溝が出来てしまう。

そしてウィーンで行なわれる協定調印式の会場が爆破され、犯人としてキャップの親友ウィンター・ソルジャー(セバスチャン・スタン)が指名手配されrる。だがこれは何者かが仕組んだ罠だった。友の無実を証明する為に赴くキャップとそのチーム。だがその前に立ちはだかったのは、彼らの逮捕命令を受けたアイアンマンとそのチームだった。もはや話し合いで解決できる術を失った彼らは禁断の戦い、シビル・ウォー(内戦)に突き進んでいく。友情、誇り、国家・・・さまざまな思惑が交ざる中、戦いの幕が切って落とされた。果たしてアベンジャーズは崩壊してしまうのか?

06年(日本語版は11年)に刊行された原作版『CW』は、ヒーロー同士の対決を軸にしながら、国家が無条件で個人を監視・盗聴できる「愛国法」へのメタファーとして描かれました。そして現在、大統領選まっただ中のアメリカでは、民主党の候補者選びに重ねる人が多いようです。理想主義のキャップはバーニー・サンダース、現実主義のアイアンマンはヒラリー・クリントンに例えてもいいでしょう(じゃぁドナルド・トランプは?もちろん原作・映画未登場のヴィランでしょう)。

多数のヒーローが登場する原作に対し、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)版CWに登場するヒーローは12人。正直少ないですが、2時間ちょっとの枠に収めるには、これが限界なのでしょう。スパイダーマンの参戦はうれしいのですが、原作で重要な役割を果たすファンタスティック・フォーの不在は痛いです(もちろん映画化権買い戻しが間に合わなかったから。ちなみにX-MENは原作ではフテ寝を決め込み、ソー、ハルク、ニック・フューリーは原作でも不在)。その点では不満が残りますが、観ているうちは気になりません。

どうしても『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(以下『BvS』)と比較されがちですが、MCU1作目の『アイアンマン』の頃から、複数のヒーローが共演する事を前提に脚本が書かれてるので、『BvS』と比べると物語性の破たんはありません。主役から脇役まで程よく見せ場をつくってるので、この手のクロスオーバー(「コラボ」とは言わない)にありがちな、人気キャラがアザーガイズにというのもないです。

いやでも注目されるスパイダーマン(トム・ホランド)ですが、急きょ参戦が決まったと言う割には、けっこう出番あります。コスチュームも東映版『スパイダーマン』みたいで、筆者世代(年がバレる・・・)には申し分ありません。尤もウィンター・ソルジャーの左ストレートを受け止めた時の「これって本物?」というセリフが、別の字幕に差し替えられてたのは納得いきませんが。

勝利者なき戦いの果てに、彼らが失うものと見出すものを見極める、MCUにとってもターニングポイントになるであろう本作。判定は5段階評価の4(モトは取れるし、DVDも特別編を買って損しない。余裕があればBDでもいい)。今回もエンドクレジットの途中と最後に映像があるので(『BvS』にはなかった)、明るくなるまで席を立たないで下さい。

それにしても先月の映画秘宝、「キャップが未だ童貞記録更新中」って、そんな事言うなよ。アラナインのジジィに向かって(それはそれで問題だが)

2016年2月 9日 (火)

M13号的トホホムービー2015+α

昨日に続きトホホ10です。

1位、ファンタスティック・フォー

2位、ギャラクシー街道

3位、ピクセル

4位、天才バカヴォン 甦るフランダースの犬

5位、極道大戦争

6位、THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦

7位、チャッピー

8位、龍三と七人の子分たち

9位、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN

10位、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド

①はマーベルの最も愛すべきヒーローチームをオワコンにしたので、②③は本当につまらなかったので(『真田丸』は今の所おもしろいが)、④はフラッシュアニメで十分過ぎる出来だったので、⑤は本当に三池崇史が撮ったのかと思うほどつまらなかったので、⑥はレイバー戦のラスボスはレイバーでなければいけないので、⑦は『第9地区』と比べて残酷模写が少なすぎるので、⑧は老人版『アウトレイジ』じゃなかったので、⑨⑩は町山氏にもう映画の脚本を書いて欲しくないので。

総評 去年2015年のベスト10とトホホ10は、何本かかぶっちゃうんぢゃねーの?と懸念しましたが、さすがにそれはありませんでした。相変わらずの洋高邦低は来年も変わらないと思います。そして誰もが口あんぐりの『~巨人』二部作ですが、それはもう忘れる事にしました。アニメの『進撃!巨人中学校』のほうがまだ面白いです。まぁ良かれ悪かれ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の年だったって事で。

2016年2月 8日 (月)

M13号的ベストムービー2015

2014年のベストムービーとトホホムービーを発表したのは、去年の2月12日と13日でした。今年は体調は悪くないんですが、多忙の為また2月にずれ込んでしまいました。でわベスト10から。

1位、マッドマックス 怒りのデス・ロード

2位、グリーン・インフェルノ

3位、キングスマン

4位、日本のいちばん長い日

5位、007 スペクター

6位、ターミネーター:新起動/ジェニシス

7位、コードネームU.N.C.L.E

8位、ミュータント・タートルズ

9位、アントマン3D

10位、キャノンフィルムズ爆走風雲録

特別賞、色情トルコ日記(ニュープリント版)

①は『西部警察』の30倍の規模でホントにカーチェイスをやったので、②は21世紀でも野蛮人映画が通用する事を証明したので、③は教会のバカみな殺しシーンが素晴らしかったので、④は歴史を学ぶいい機会になったので、⑤⑦は③には劣るが古き良きスパイ映画を復活させたので、⑥はジジィターミネーターのアイデアが素晴らしかったので、⑧⑨は久しぶりに何も考えず笑えるアメコミ映画だったので、⑩はいろんな意味でお世話になったので、特別賞はソフト化の予定が全くないのにニュープリント版を作ってくれたので。

ベストガイは悩んだけどコリン・ファース。だってトム・ハーディはほとんど輸血袋みたいなもんだったし、シュワルツェネッガーはジジィでもあれだけやって当たり前なので、となるとあそこまで動く56歳(撮影当時)にあげるしかないっしょ。ベストガールはシャーリーズ・セロン。久しぶりに「姐さん!」と呼ばせて欲しい人なので。ベストシーンはこれも悩んだけど『グリーン・インフェルノ』の人喰いシーン全部。バリエーションが豊富すぎてうまいぞ!(って、クッキングパパぢゃねーよ!)

明日はトホホ10と総評をお送りする予定です。

2015年9月18日 (金)

M13号シネマ『キングスマン』

子供の頃、父に連れられて『スター・ウォーズ』を観に行った所、映画館がめっちゃ混んでたので、代わりに観てきたのが『007 ムーンレイカー』でした。父はあまり満足してなかったようですが、まだ幼かった筆者はおもしろかったので、後日友達と一緒に観に行きました。そこから筆者のスパイ映画好きが始まり、新作旧作問わず観続けましたが、次第に何か違和感のようなものを感じ始めました。そんな空気を一掃してくれたのが『キングスマン』でした。

ロンドン、サヴィル・ロウの一角に店を構える高級テーラー「キングスマン」。その正体は世界中どの国家にも属さない、正義のスパイ機関だった。ベテランエージェントのハリー(コリン・ファース)は殉職したメンバー、ランスロットの後任として、兼ねてから目を付けていたエグジー(タロン・エガートン)をスカウトする。当初乗り気じゃなかったエグジーだが、あるトラブルから救ってくれたハリーの為に、新人キングスマンのテストを受けることになる。

その頃、世界中でVIPやセレブの失踪事件が相次いでいた。犯人はアメリカのIT長者ヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)。彼は増えすぎた人類がいずれ地球を滅ぼすとして賛同者を集め、意に反するものを監禁していた。そして自らに選ばれし者以外の人類を抹消すべく、恐ろしい計画を発動する。何も知らない大多数の人は、知らず知らずの内に、その計画に乗ってしまっていた。悪の野望を阻止すべく動き出したキングスマンだったが、事態は彼らの予期せぬ方向に動き出すのだった。

タキシードやブランド物のスーツを身にまとったスーパースパイが、敵の要塞に侵入しガジェット(ひみつ兵器)を駆使して悪のボスを倒した後、機密書類と美女のハートをゲットして脱出。古き良きスパイ映画はそれが王道でした。しかし『ミッション:インポッシブル』以降のスパイ映画はシリアス路線に移行し、気が付いたらスーパースパイは『オースティン・パワーズ』や『ジョニー・イングリッシュ』といったパロディ物の中にしかいませんでした(それはそれで面白いが)。そうした流れに異を唱えたのがマーク・ミラーとマシュー・ヴォーンの『キック・アス』コンビでした。

元々彼らはロジャー・ムーア時代の『007』のファンという事もあるのですが、『X-MEN ファーストジェネレーション』で「アメコミヒーローを使ったスパイ映画」を作り出し、真打ちとも言うべき『キングスマン』を送り出して来ました。粋で往なせでオサレなスパイ、数多くのガジェット(しかも全部使ってる!)エコでロハスな誇大妄想狂の悪役と人間離れした手下、それはまさに荒唐無稽と言われながらも一番面白かったムーア=ボンド映画の再現でした。まぁ「ガンブレラ」だの「ど忘れウォッチ」だのは映画秘宝の勝手な命名ですが、面白いからいいでしょう。

逆に今風なのは女性キャラの扱いでしょう。特にヴァレンタインの用心棒ガゼル(ソフィア・プテラ)。両足が刃状の義足という、文字通り殺人キック(としか言いようがない)の使い手。元ネタは『死ぬのはやつらだ』のティー・ヒーか『私を愛したスパイ』のジョーズなのは明らかですが、色仕掛けを使うわけでもなく改心もしないという点では、『美しき獲物たち』のメイ・デイに近いかも知れません。(そう言えば秘宝ボンドガール総選挙のセンターもメイ・デイだった。てことは・・・)

そして後半最大の見せ場である教会でのみな殺しシーン、半年間特訓してダメなら降板という条件で引き受けた事もあり、コリン・ファースも気合い入ってます。本当に「流れるような」としか言いようがないシーンで56歳のおっさんが、かつて『キック・アス』で観たヒットガールのカチ込みみな殺しシーン以上の大殺戮を展開します。殺されるのは差別主義のバカどもなので、観ていて全く同情する事はありません。むしろこれが今の永田町で(以下かなりかなりヤバい事を書いてたので、大慌てで削除)。高橋ヨシキ氏が大絶賛した事もあり「また適当な事言ってんだろw」というアンチもいるようですが、そういう人はそういう人生を歩んでよろしい。その代わり一生後悔しますよと言っておきましょう。また、ここ数年省エネ演技が続いてたサミュジャクも、久しぶりに『パルプ・フィクション』の頃のチリチリした雰囲気を醸し出してます。「マザファッカ」は言いませんが。

全世界の脳内ジェームズ・ボンド(主にムーア版)に捧ぐ、古くて新しい王道のスパイムービー。判定は5段階評価の5(もう何も言うことなし。BDの購入は必須だが、その前にもう一度観ようというレベル)。この冬には本家007も『スペクター』を引っ提げてきますが、多分こっちには勝てないと思います。

ちなみに今回、アメリカがやけにコケにされてます。サミュジャクは言わずと知れたニック・フューリーの中の人だし、劇中で彼が進めるディナーはマクドナルドだし(「安心したまえ、中国製じゃないから」とか言ってくれたら、なおグッドだった)、みな殺しの舞台になった教会にはモデルが存在するし。理由は簡単。スパイ映画の中で世界を救うのは、イギリスと決まってるからです。アメリカはいつも引き立て役。

2015年8月15日 (土)

M13号シネマ『日本のいちばん長い日』

70年前の今日、一つの時代が終わりました。そして新たな時代が幕を開けました。しかし、それはすんなり決まったわけではありません。時代を終わらせる為に多くの人が動き、中には血を流した人もいます。あの日が近づく中で、人はどのように動いたのでしょうか?

第二次大戦末期の昭和20年(1945年)4月5日、日本の勢いがジリ貧に陥って行く中で、昭和天皇(本木雅弘)は元侍従長で77歳の鈴木貫太郎(山崎努)に、組閣の大命を下す。既に敗戦が避けられなくなった中、迅速かつ円満に事を進めさせるためだった。総理となった鈴木は公然と本土決戦を主張する陸軍を抑えるべく、穏健派の阿南惟幾大将(役所広司)を陸軍大臣に任命する。天皇の信任を得てる阿南なら事態を打開出来るという、期待があったからだ。

だがそうした動きをあざ笑うが如く、世界情勢は目まぐるしく変化する。5月1日には同盟国ドイツが降伏し、7月26日には連合国が事実上の最後通告であるポツダム宣言を発令するが、国体護持に関する記載がない事を理由に、内閣はこれを無視。すると8月6日には広島に原爆が投下され、9日にはソ連が日ソ中立条約を破棄して対日宣戦布告。同じ日には長崎に2発目の原爆が投下された。

事ここに至って昭和天皇は自らの意思で戦争を終わらせるべく、ポツダム宣言受諾を決意。玉音放送の録音が行なわれる。だが激高した陸軍の畑中健二少佐(松坂桃李)は、徹底抗戦を主張すべく挙兵。反対派の森近衛師団長を暗殺すると、次は宮城占拠と録音盤の奪取を目論むが失敗。その頃阿南はケリをつけるべく、自宅で自ら果てた。そして迎えた8月15日。その時が迫っていた。

原作は半藤一利氏の同名ノンフィクションであり、過去には岡本喜八監督・三船敏郎主演で映画化(1967年=昭和42年)されており、今回は48年ぶりのリメイクと言われてますが、別物と言った方がいいでしょう。同じ半藤氏の『聖断 昭和天皇と鈴木貫太郎』や『昭和天皇実録』の記述も組み込まれてるので、内容的にも上です。脚本を手がけた原田眞人監督は、既に2年前から構想を練っていたとの事ですが、人々がアベノミクスに淡い期待を寄せていた中でこうなる事を予測していたのは、お見事といってもいいでしょう。実際その2年間で世の中には不穏な空気があふれ始めたのですから、過去の時代に学ぶ事で現代への警鐘・教訓とするいい見本と言っても過言ではありません。

何より最大の特徴は、昭和天皇を歴史の主役・物語の主人公の一人として、きちんと真正面から描いた。これに尽きます。オリジナル版では8代目松本幸四郎が演じていましたが、後ろ姿か引きのショットだけで、名前すらクレジットされませんでした。その後も『太陽』や『終戦のエンペラー』ではそれぞれ、イッセー尾形や片岡孝太郎が演じてましたが、これもイメージ的なものであり、物語の中心にはなり得ませんでした。しかし今回、ようやくそれが実現できた事で、物語に深みが付きました。かつて歴史学者の八幡和郎氏は「昭和天皇を無条件に神聖視するのではなく、政治的な立場を超えて、客観的に評するべきだ」と主張しましたが、この映画は一つの回答として成り立ってます。

それを成し得たのは、やはり本木雅弘の演技力のたまものでしょう。一部フィクションもあるとは言え、全く違和感を感じませんでしたし、「本物の昭和天皇も、そのような事を申されたのだろう」という説得力に満ちてます。そう言えば彼は大河ドラマで徳川慶喜を演じてましたが、武家政治と軍国主義の「おくりびと」を演じたのは、何かの縁でしょうか?

逆に映画で残念な点を上げると、阿南陸将の切腹シーンはオリジナル版が上でした。切腹はきちんと正面から描かないといけません。そう言えば三船と役所、どちらも阿南惟幾と山本五十六を演じてるんですよね(しかも作品も同じ)個人的には「存在感の三船に、演技力の役所」と思ってますが、どうでしょうか?他にもちゃんとした殺陣が出来る松坂桃李にポン刀持たせないとか、ロケが全て関西なので首相官邸(現、首相公邸)と近衛師団司令部(現、東京国立博物館工芸館)が出てこないとか、昭和天皇の御料車がベンツじゃなくてパッカード(本物は今も宮内庁とヤナセが保管してるはず。処分してなければ)だとか、数え上げればキリがありませんが、それも壮大な歴史の前では些細な事です。でも役所以下陸軍の面々を丸刈りにして、ブートキャンプやらせた(さすがに役所はパスだろうが)させたのはよし。

きな臭い時代に対し「こんなのおかしいよ!」と正面から言い切る「日本人よ、これこそが映画だ」と呼ぶにふさわしい作品。判定は5段階評価の4(モトは取れるし、DVDも特別編を買って損しない。余裕があればBDでもいい)。この夏は映画で歴史の勉強をしながら、平和について考えるいい機会だと思います。

ちなみにまんたんウェブによると、役所広司は「水野晴郎に似ていると言われて、ちょっとショックを受けている」んだとか、そういえば痩せてはいるが、たしかにパッと見た感じ山下奉文大将に似てます。と言う事はひょっとしてひょっとしたら『シベ超エピソード1』の主役はまさか・・・ねぇ。とにもかくにも「戦争はいかん!」

2015年3月10日 (火)

M13号シネマ『機動戦士ガンダムTHE ORIGINⅠ 青い瞳のキャスバル』

説明不要のリアルロボットアニメ『機動戦士ガンダム』は、その40年近い歴史の中で幾度かの設定変更がなされてきましたが、リブートというのは今までありませんでした。「ガンダムエース」で連載された『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』(以下オリジン)は、初の本格的リブートとして大きな反響を呼び、アニメ化に対する期待も高まって来ましたが、その第1段がようやく出来ました。それが今回の『青い瞳のキャスバル』です。

宇宙世紀0079年1月、地球から最も離れたスペースコロニー、サイド3は「ジオン公国」を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んだ。世に言う「一年戦争」の幕開けである。国力で劣るジオンは新兵器、モビルスーツを戦線に導入。連邦の艦船を次々と沈めていく。とりわけシャア・アズナブルの戦果は目覚ましく、その赤い機体もあって彼は「赤い彗星」の異名を持つに至る。だが、この男が仮面の下に秘めた大きな野望に、気付いた者はいなかった。

開戦11年前の0068年、後のジオン公国となるムンゾ自治共和国。国の指導者で連邦からの完全な独立を目指していたジオン・ズム・ダイクンは、突如として帰らぬ人となり、側近のデギン・ソド・ザビが後を継ぐ。だがそれは国を乗っ取るべくザビ家が仕組んだ陰謀だった。もう一人の側近ジンバ・ラルは、次に狙われるのはダイクンの遺児であるキャスバルとアルテイシアであると察し、息子のランバ・ラルに警護を命じるが、先手を打ったデギンの娘キシリアによってキャスバルは拘束、手錠を掛けられてしまう。キャスバルは愛する者を守るために気丈に振舞うが、それは後にシャア・アズナブルと呼ばれる事になる男の、長い闘いの始まりに過ぎなかった。

正直な所ガンダム、それも一年戦争ものは行き詰っていたと思います。OVAやゲーム、コミック等の度重なる追加設定とそれに伴う矛盾(今回も冒頭で黒い三連星がレビル将軍を捕獲するシーンがあったが、機体が高機動型ザク改良型だったのは、明らかに間違い。あれはザクⅠだったはずだが、他のゲームやコミックではザクⅡ初期型やシャアザクと同じ06S型だったりしてややこしい)。毎度同じ物語の繰り返し(キャラを区別化しても、結局どっかでアムロやシャア等になってしまう)モビルスーツだけでもジオン・連邦合わせて300種類位に増えてるし、このまま行ったらどっかで破たんするのは目に見えてました。それだけに『オリジン』、それも時系列上は最初の物語である「シャア・セイラ編」のアニメ化は、リブートとしては丁度いいタイミングだったと思います。

その為キャラの中の人はほぼ総とっかえになっちゃいましたが、旧作のファンを繋ぎ止めるためか、ギレン・ザビはオリジナルと同じ銀河万丈氏が演じてました。今回は「ジーク・ジオン!」とは言いませんが、いつも通りの落ち着いた声で冷酷な政治家振りを表現していました。でも今回のギレン、私服のセンスは最悪。ジオン私服センスない軍人選手権(勝手に開催)でわ、間違いなく優勝でしょう。逆にキシリア様は・・・

もう一つの主役、モビルスーツで言えば、冒頭のルウム戦役のシーンに度肝を抜かれました。これまでアニメやゲームなどでも見てきましたが、フルCGだと迫力も通常の3倍。そんな中戦場を駆け巡るシャアザクは彗星と言うよりは、蝶のように舞い蜂のように刺すといった動きを見せてくれます。でも今回一番カッコよかったのはガンタンク初期型だったりします。ここまでガンタンクがカッコよく描かれるとは思いませんでした。この辺は『0083』や『重力戦線』で鍛えた今西隆志監督の見せ所です。

時間は短くとも通常のアニメの3倍楽しめる、古くて新しいガンダムユニバース。判定は5段階評価の4(モトは取れるし、DVDも特別編を買って損しない。余裕があればBDでもいい)。続編は秋公開との事ですが、「シャア・セイラ編」だけでなく、本編もアニメ化してほしいと願わずにはいられません。

ところで今回、キシリア様の「え!」というシーンがあるので、全国の脳内マ・クベ(もしくは脳内トワニング)は、期待して下さい。尤も今回のキシリア様、開戦当時35歳(旧作では24歳)なので、0068年の時点で15歳ぢゃなくて24歳なんですな。道理で。

2015年2月17日 (火)

M13号的トホホムービー2014+α

明日と言いながら5日も経ってしまいました。依然として体調が悪いので、なかなか更新できないのは申し訳ないのですが、多分今月はこんな調子で進むと思います。でわトホホ10です。

1位、ルパンⅢ世

2位、STAND BY ME ドラえもん

3位、相棒 劇場版Ⅲ

4位、リベンジ・マッチ

5位、ロボコップ(2014年版)

6位、スノーピアサー

7位、アイ・フランケンシュタイン

8位、MOTHER

9位、太秦ライムライト

10位、エクスペンダブルズ3

①はホントならワーストの別格上位にしようと思ったんですけど、もっとヒドイのが出てきたので、②は過去エピソードのいいとこ取りに過ぎないので、③⑥⑦はせっかくの素材を生かせなかったので、④は出がらし感がハンパなかったので、⑤はユーチューブのウソ予告編の方が面白かったので、⑧⑨は接待企画の典型なので、⑩は残酷模写が少なすぎるので。

総評 一昨年わずかながら面白い邦画が出てきたので、去年のベスト10・トホホ10はいい意味で変わるのだろうと思っていましたが、また元に戻ってしまいました。そして何より高倉健・菅原文太の両御大の死は、この国でムービースターという職業が、間違いなく絶滅危惧種になってしまった事を示しています(ホントに絶滅するのは、吉永小百合が死んだ時)このまま行ったら2015年のベスト10とトホホ10は、何本かかぶっちゃうんぢゃねーの?と、今から懸念してしまいます。ま、何本か期待してる作品はあるので、それはないと思いますが、果たしてどうなる事やら・・・

2015年2月12日 (木)

M13号的ベストムービー2014

2013年のベストムービーとトホホムービーを発表したのは、去年の1月23日と24日でした。今年は自身の体調不良で2月にずれ込んでしまいましたが、ようやく発表する事が出来ました。でわベスト10から。

1位、イコライザー

2位、フューリー

3位、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

4位、300 帝国の進撃

5位、西遊記 はじまりのはじまり

6位、アダム・チャップリン 最・強・復・讐・者

7位、テーターシティ 爆・殺・都・市

8位、キョンシー

9位、クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落

10位、TOKYO TRIBE

特別賞、高倉健・菅原文太

①はアメリカ版『必殺仕置人』として十分通用するので、②は本物のティーガーとシャーマンが動くので、③ははみ出し者が一致団結するのが素晴らしいので、④は残酷模写とおっぱいがうまくかみ合ったので、⑤はチャウ・シンチー復活へののろしとして(次は出演も!)、⑥⑦はまさかBD化されるとは思わなかったので、⑧はキョンシー本来の恐ろしさを表現出来たので、⑨はアメリカ版『痛快!ビッグダディ』として、本家よりおもしろかったので、⑩は国産マンガ原作映画・ギャング映画としては、よくがんばったので、特別賞は今更言う事ないでしょ。

ベストガイはもちろんデンゼル・ワシントン。あのまま和服着て江戸の街歩いても、全く違和感ありません。まさに黒い念仏の鉄(骨はずしはないけど)。ベストガールはエヴァ・グリーン。ムダに脱ぎまくるのがいいですね。次は全裸アクションでも空中ファックでもやってもらいましょう。ベストシーンはこれまた『イコライザー』からデンゼル・ワシントンが、ワイヤーロープで三味線屋勇次をやるシーン。間違いなくこのスタッフ、『必殺』観てるわ。何で日本でこれが出来ないんですかにぃ。

明日はトホホ10と総評をお送りする予定です。

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